あなたの行く道に。




 こう、交差する道があるとして、ですね。

 突然語り出した記者に、おやじさんと呼ばれて親しまれている初老の男は首を傾げた。

 いくつかの道の中には、自分の望む道があったり、栄光への道がある。
 …一体何人が、その道をまっすぐ歩めるのでしょうね。

 おやじさんは、苦笑した。

 さすがにブンヤさんというのは、表現が詩的だね。

 すいません、わかりずらいですよね。

 詩的と言われて己が少しばかり、感傷的だったことに気づいて、ジュネットは頭をかいた。
 それを見たおやじさんは、少し考えてからぽつりと口を開く。

 まっすぐ歩める人間なんて、いないだろうね。

 そしてそれから、やはり笑った。

 何を考えてそんな疑問が出たのか、興味があるな。

 ああ…いえ、ハミルトン大尉…今は少佐でしたっけ。彼に私はずいぶん親切にされたものです。守備兵に取り上げられたカメラを取り返してくれたのは彼でしたし、開戦と同時に私に特務員としての仕事をまわすように手配してくれたりもした。
 その彼が、うちでは何を考えていたのかと思うと…ブンヤやってますから、人間の心の機微ってもの、少しはわかってるつもりだったんですけど。

 他人から見た自分が平面だったら、さぞつまらないだろうねぇ。私はそれでいいと思うが?

 あのサンド島、狭くて美しい島で、スパイと呼ばれて追い詰められた。物陰に息をひそめ、ウォードッグ隊のパイロット達と行動を共にした。
 あの時に、私はおそらく、ペンとメモとカメラを持ち、出来ることならばハミルトン大尉のところへ走り、そしてたずねたかった。

―――なんのために?

 答えはなんだっただろう。どんな答えが、彼の口から聞けただろうか。

 おや、いいところに来たね。

 おやじさんがそう声をかけたのは、今やラーズグリーズと呼ばれる編隊のリーダーであるブレイズだった。彼は首を傾げている。

 今ね、ジュネットと面白い話をしていた。キミから見て、たとえば彼はどんな風に見えるのかな?

 尋ねられて、ブレイズは少し困ったように視線を泳がせた。
 どうやら言いづらい感想を持たれているようだ。ジュネットも困ったように苦笑いを浮かべる。

 言いたまえ、新しい視野が開けるかもしれんぞ?

 ああ…えーっと。

 それでも少し困ったように、ブレイズはうなっていた。
 しかしおやじさんの笑顔の脅迫はおさまるところを知らない。数秒後、白旗と同様の長いため息がもれた。

 えーっと…女好きですよね…

 …オチがこれですか。

 上等なオチだろう。

 ああそうですね。くだらない話だってことだ。
 ここにまざって、あの人も一緒に笑えたらよかったと、私はそう思っていますよ。