Fool on the planet




 奴の目が赤く染まっていた。こいつなのか、こいつを倒すのか、倒せるのか?そういう思いが突風のように駆け抜けて、瀬戸口は言葉を失った。
 奴は静かに笑っている。まるでわかっている、とでも言いたげな表情で。しかしその目だけが赤くて、切り取られたようにそこだけがバケモノなのだった。
「なぁ」
「あ、あぁ」
 なんで笑っていられるんだ、と思った。
 こいつ。こいつとはうまくやっていけると思っていた。
 こいつといると楽しいと思った。息が合う。話題も、女の趣味も、敵を前にして考えることもほとんど一緒だった。
「おまえがよく言ってる女の名前」
「……」
「いい女なんだろ?」
「あぁ……」
 シオネの名前を、こいつには語った。それについて詳しい話はそれ以上しなかったのだけれど、奴はそれを覚えていたようだった。瀬戸口にとってはその名前は果てしないほど深い意味の名前だった。女でもあり、母でもあり、もう祈るべき相手でもあった。
「おまえ、幸せだな。そんな女と出会えたんだから。おまえ、幸せだよ」
「……おい」
「俺のことなんかさっさと忘れちまえ。おまえは何もかも終わったら、必ずその女のところへ行って、何もかもぶちまけて来いよ」
「やめろよ…、やめろ」
 勝った後に笑ったじゃないか。俺たちはいいコンビだと肩を抱いて笑った。お互い周囲の目からは浮いていた、バケモノコンビだと噂されていた。しかしそんなもの気にならないくらいだった。陰口を叩くような奴らも、このコンビが戦場に立てば怖いものはないと褒めそやした。
 勝手なもんだと肩を竦めて二人で笑って、―――その頃彼の瞳の色は赤くなかった。吸い込まれそうな黒い瞳だった。
「俺はちょっと疲れたらしい」
「望むのか、それを」
「おまえにならいい、って思った」
 絶望というならそれは遠い昔に体験した。あれ以上の恐怖もあれ以上の喪失感もないと思っていた。
 それなのに。

 涙を、流したのかどうかは覚えていない。本当のバケモノに変わっていく奴を見ながら、何を考えていたのかももう忘れた。

 そして。
 ただ一人、自分は残されて荒野に立った。
 何もない。
 ここには何もない。
 …なんで、生きてるんだろう。

 何もかも馬鹿らしいのに、自分が一番馬鹿らしい。
 それでも、貴女に逢いたい、なんて。



BACK
どっちが愚かだったのか。という話。
瀬戸壬生じゃないです。半分以上オリジナルです(笑)。えー、このタイトル、AC04でも使ったしWパロでMGSでも使っているのである意味制覇(爆)。いいタイトルだ。
日記に書いた話なんで短くてすんまへん。瀬戸口に萌えてみようキャンペーン。
しかしながら不発っぽいな。ハハ。スンマヘン。