TEARS
 終わった―――。
 目の前で、龍麻が宝珠を砕いた。
 物凄い音と物凄い光がして、そして。
「終わった…」
 ぼんやりと、呟いた。

「さて帰ろうか」
 何もなかったような表情で、龍麻が笑った。それにつられてみんな笑った。
 その中で、劉だけがぼんやりと柳生が倒れた方を見ている。
「劉?」
「あー翡翠ちゃん」
 まだ青龍刀を握りしめている。
「終わったんや」
 ぼんやり笑う劉の表情が、どこか迷っているようだった。
「…そうだな」
「ワイの積年の夢も果たせたってワケやな。あーなんか変なカンジや」
 迷いを吹っ切るように、劉は背伸びをした。
 笑う表情に無理がある。
 いつもの笑顔じゃないのは、一目瞭然だった。
「物心つく頃から柳生倒すことしか考えてなかったさかい。………」
 ふ、と。
 如月は劉から目を離した。
 そういうことか、と柳生が倒れた場所を見る。
 いろんな感情が、宙でさまよっている。
「…嬉しいはずなんやけどな」
 頭をしきりにかいて、劉は困ったように笑っている。
 生きるために柳生に復讐を誓った。そうでないと生きる目標がなくて、何もない状態で生きるのは辛くて。
 でも知っている。一族の者が柳生への復讐を望んでいたわけではないことは。
 ただそれを知ってもやめるわけにはいかなかった。ここで失うわけにはいかなかった。
 …自分のためだ。
「変な気分やな…」
 この先。どうするか、どうなるか、どう生きるべきか。
 酷い喪失感。今まであったものがすっかり削げ落とされたような。
「劉」
 如月はゆっくり劉に近づいた。
 その瞬間。
「飛水流奥義・龍遡仁!」
 大量の水が、如月の手で突如劉を襲った。
 もちろんなんの警戒もしていなかった劉は、避ける暇もなく技をくらって、水びたしになった。
「何すんねん!」
 全身水びたしである。この時期この状態は寒いどころの騒ぎではない。
「たとえば木の葉を隠すのに一番いい場所はどこか、知ってるか?」
「…は?」
 如月は笑っている。
「…森やろ?」
「今なら、誰も気付かないよ」
 そう言って如月は踵を返して、歩き始めた。
 何のことかわからないまま、劉はぼんやり如月の後ろ姿を見つめている。
「…どういうことや」
 寒さを忘れて首をかしげる。
 その瞬間。
 頬に暖かいものが流れ落ちた。
「………あ」
 ようやく、わかった。
「なんやそういうことか…」
 肩を震わせて、劉は笑った。
 ようやく如月の言ったことを理解して、劉は笑った。
 笑いながら、泣いた。
「さすがやな、翡翠ちゃん…やっぱワイが好きになった人や」
 声が震えた。
「大好きやー…翡翠ちゃん…」

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BGMはzabdakです。同タイトルの曲から。この曲を聴いてて思いついたですよ!劉と如月では劉の方が重いものを背負ってて、それが魔人のラストで消えるわけですが。こういう復讐を誓って生きてきた人間っていうのは目的が果たせた場合どうなるのかしらとか。いろいろ考えてていつか書きたいなと思ってた話です。如月はその点生きている間ずっと背負ってくものなので、ある意味心の支えがなくなることはないわけですよ。それを重いと思うかどうかは人の器にもよるでしょうが。だから強いと思うです。こういう時は。

自分の中で、たぶんいまだに一番好きだと言えるSS。(2001.0122)

この頃から私、受けのが精神的に強かったのか…(汗)。(2002.0301)