台風クラブ
監督:相米慎二
音楽:バービー・ボーイズ
キャスト:工藤由貴、三上裕一、松永敏行、大西結花、三浦友和、寺田農、佐藤充etc.
1984(ディレクターズ・カンパニー)

★★★台風が直撃して家に帰れなくなった中学生グループは、その暴風雨に乗じて感情を爆発させる。
相米慎二らしい長回しで遠いカメラの向こうには、パンツ一丁でどしゃ降りの中を、または体育館のステージで熱心に踊りまくる少年たちがいる。
一方で朝寝坊が原因で学校をサボって東京をぶらついていた少女(工藤由貴)はナンパしてきた大学生(尾美としのり)の家に連れ込まれる。
思春期のイライラと台風がつくりあげた束の間の解放区。
好きな子に好きといえず(自分で好きなのかどうかもわからなくなってる)、熱に浮かされたように暴力で迫る野球部の少年、台風が去って、窓の外のどうしようもないのっぺりとした現実に直面した明晰な少年が取った行動は・・・。(犬神家の一族を思い出したのは僕だけだろうか(笑))また、謎のシーン、象徴的なシーンがいくつもあって面白い。
いきなり前半でお母さんの布団に入ってオ●ニーし始める工藤由貴や、野球部の部室を独りで出たり入ったりしながら「ただいま。おかえり」と繰り返す少年、そして大学生の家から逃げてきた工藤由貴が明け方の商店街で出会う、オカリナを吹く謎のフリークスは「オカリナは夜吹くものです」とつぶやく始末(笑)。わけわかめ。
ちなみにこの映画での演技が評価された工藤由貴は、ジム・ジャームッシュの『ミステリー・トレイン』に出演することになります。
思春期の鬱積した感情の不可解さ、起爆したときの無茶苦茶さがすごくリアル。
荒削りで理論皆無の怪作。
'84年度キネマ旬報ベストテン第5位、'85年度東京国際映画ヤングシネマ部門グランプリ。
<ナヲイ>

徳川セックス禁止令 色情大名
監督:鈴木則文
脚本:鈴木則文・掛札昌裕
キャスト:杉本美樹、サンドラ・ジュリアン、名和宏、殿山泰司、山城新吾etc.
1972(東映)

★★★お殿様がセックス恐怖症、このままではご世継ぎが生まれないとあって焦る家老(殿山泰司)たち。
付き人の女達と葵の紋入り木製男根を片手にエロを学ぶお姫様(杉本美樹)との初夜では太鼓の音に合わせてどんどこどんと、やってみたもののうまくいかず、箱に入って送られてきたフランスの美人(サンドラ・ジュリアン)と謎の黒人女性のテクニックで性の快楽に目覚めたお殿様がこともあろうに快楽を独占しようとしたもんだからさあ大変。
まるでジャイアンが思い付いたかのような"セックス禁止令"が施行されたのである!
しかし当然無茶なこの条令。町も城内も欲求不満で大混乱!お殿様がそんなのをよそにお気に入りのサンドラと「極楽じゃ〜」とやりまくってる中、混乱はピークへと達し、ついに「やらせろ〜!」と一揆勃発。
「俺達だってやりたいんじゃぼけー!」と泣く家臣たち。
そして姫方に目の敵にされていたサンドラは付き人達のリンチを受け、さらに家臣の1人と交わってしまったことから、お殿様の知らないうちに条令の規定通り、海で逆さ磔となってしまう。
落ち込んだお殿様は禁止令を解禁し、町にはやっとこさ歓喜が訪れ、みんなそこいらじゅうで交わり始めるのであったとさ。ちゃんちゃん。
「栗鳥の巣にエサを〜」「雛が巣立ちまする〜」というようにかの小池一夫も泣いて悔しがったという(嘘)設定満載の、馬鹿エロ娯楽時代劇。
鈴木監督が東大出身というのは、教訓めいたラスト以外微塵も感じられないが(笑)。
文字どおり昇天するお殿様に合掌。ていどひくい。
<ナヲイ>

 

殺人狂時代
監督:岡本喜八
脚本:山崎忠昭
キャスト:仲代達也(桔梗信治)、天本英世(大日本人口調節審議会理事)、団令子 etc.
1967(東宝)

★★★精神病患者を殺人者に仕立て上げて大日本人口調節審議会理事(実はナチスの残党に貢献するために邪魔な人間を排除している狂信的団体)と名乗るマッド・サイエンティスト(天本英世)と、一見全然ダメそうに見える貧乏でさえない大学講師ながら実はプロの殺し屋である桔梗(仲代達也)が激突するっていうとんでもない映画(笑)。
ルパン+007テイストに痛快な喜八節が加わった前代未聞のアナーキーかつ痛快なブラック・アクション・コメディだ。
隠れる自衛隊のスパイが無線で「こちらオバQ、こちらオバQ!」なんつってやり取りしてたり、仲代と天本の精神病棟での対決シーンはバックの檻の中の様々な症状の患者(集団でスクワットしてる患者とかいたりして)が笑わせてくれる。
細かなデティールまで、かゆいところに手が行き届いていて、目が離せない。
襲い掛かってくる13人の殺し屋たちは全員キ●ガイだし、実にバリエーション豊か(笑)。我らが殺し屋・桔梗も、一度男らしく立ち向かったかと思えばUターンしたり、相当にセコい。抱腹絶倒間違いなしである。
この手の映画に欠かせない美女の裏切りもしっかりある。というのも脚本が、かのルパン三世や中平康監督のギャング映画「危いことなら銭になる」などを手掛けた山崎忠昭。
彼等の乗ってる車も宮崎ルパンと同じフィアットだったりする(笑)。
映画中何回キチ●イって言うか数えるのもまた一興(爆)ってなもんで再発の予定無し!ぶわははは!というわけで岡本喜八現代劇の最高傑作がこれ。
観ないやつは檻の中でスクワット100回だ!
<ナヲイ>

江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間
監督:石井輝男
脚本:掛札昌裕(原作:江戸川乱歩)
出演:吉田輝雄、土方巽、大木実、由美てる子、由利徹 他
1969年(東映)

★★★石井輝男が何を思ったか江戸川乱歩の「パノラマ島奇憚」、「人間椅子」、「孤島の鬼」などをリミックス。(だから"全集"とか言ってるのね(笑))さらに諸々の奇天烈スパイスを加えて作り上げたトンデモ邦画。
まさにこれぞ、カルト中のカルトである!!
医者の卵である主人公は何故か過去の記憶を失ったまま精神病棟にいた。そこを脱出し、巡業中のサーカス団の女の子のと知り合い、自分の出生の手がかりを得るが彼女は殺されてしまう。
そして舞台はとある海辺の村へ。そこで自分にウリフタツの名家の若旦那が死んでいることを知った彼は。墓をあばき、死体と入れ替わり、若旦那として生き返り(この時のまぬけなお坊さんが由利徹(笑))、自らの過去をたどりはじめる・・・というのがおおすじ。
そして、その村にある孤島に手がかりを求めた彼が見たものは、生まれながら水掻きのついた手を持つ、醜い容姿の父親。
そして彼が作った人工の奇形人間のユートピアだった!!・・・ってこれがまた怖くないのなんの!見世物小屋的なポップなイメージの連続である。
土方巽のキッカイな動きを筆頭に、彼が実際に率いる暗黒舞踏団のショータイムであ〜る(笑)。
泳ぐ全裸の女たち、銀粉塗りたくりの人工フリークスたちが踊り倒すのだ!そして無理矢理くっつけた美女と醜男のシャム双生児(片割れが近藤正臣(笑))を主人公が切断手術!美女の方と恋に落ちたはいいけど実は彼女は妹で・・・ってストーリー性なんか知らん!突然現れる明智小五郎が何の手がかりもないはずなのにあっさり解決!一件落着!おいおいおい!・・・・って笑ってるうちに迎える衝撃のラストシーン。こいつがすごい!いきなり男女を描いた絵が爆発。おかあさーん!と連呼しながら飛び散る人間花火がどっかんどっかん打ちあがる奇天烈映像にはダブルショーック!ダブルショーック!
それにしても2人の生首が並んで飛んでく方向は絶対におかしいぞ!(爆笑)
筆者が観た自由が丘武蔵野館はこのシーンでまさに観客が一つに!(笑)空前絶後のラストシーンはとにかく必見!
<ナヲイ>

 

悲愁物語
監督:鈴木清順
原案:梶原一輝/脚本:大和屋竺
キャスト:白木葉子、原田芳雄、岡田真澄、江波杏子、宍戸錠 etc.
1977(松竹)

★★★『殺しの烙印』('68)が難解だという理由で日活を追い出されて以来鈴木清順監督が原案:梶原一輝、脚本:大和屋竺という強力なサポートを得て、約10年ぶりに発表した本作品は、序盤の白木葉子のコスプレショーから江波杏子のストーカー日記と化す後半、そして理解不能のラストまで、常軌を逸した不可解で異常な演出と脈略の無い強引な展開でラストまで突っ走るキ●ガイムービーなのであった!(笑)
・・・とりあえず、主演の新人女優の名前を良く見て欲しい。白木葉子・・・そう、あの「あしたのジョー」の白木お嬢様と同姓同名なのである!どーなってるの!梶原さん!(笑)・・・てなわけで、あらすじをご紹介。
とある紡績会社が新人プロゴルファーの桜庭れい子(白木葉子)を専属モデルとし、プレイ中にいろいろなファッションを身に纏わせてタイアップ効果を計り出した。キャッチコピーは"初夏の風、バーディ・チャンス"。そして大きな大会で優勝を収めた彼女は一躍スターとなり、東京近郊に豪邸を構え、弟と2人で暮らし始めるが、近所のヤジウマ主婦でれい子ファンの江波杏子(怪演!)を轢き逃げしてしまったことから話は急転。その江波主婦は足の怪我をネタにネチネチと白木をゆすり始めるのであった!
勝手に部屋にあがりこむわ、頼んでも無いのに台所でれい子の弟のご飯を作り出すわ、近所の主婦仲間及びその家族らを大勢呼んで乱痴気騒ぎをおっぱじめるわ、やりたい放題のキ●ガイオバタリアンに変身。終いにはれい子に自分の夫と寝ろと要求するなど、何でそこまで?ってほどの暴走は実に不気味悪〜い!(笑)・・・一方で顔から体にかけて真っ赤な線を引き、ゴルフ場でカメラに向かって走ってくる原田芳雄も意味不明だが、一番すごいのは実はれい子の弟の少年である(笑)。
桜の木の下での謎の少女との謎の会話を交わすシーンが随所に散りばめられてゆき、ラストではおもむろに銃をぶっ放して画面ごと焼き尽くすという大活躍ぶり!(笑)。
さあ、君はこの異常世界で正気を保つことができるか?
<ナヲイ>

 

 

狙撃
監督:堀川弘通
出演:加山雄三、浅丘ルリコ、岸田森、森雅之、小沢昭一、森一生 他
1968(東宝)

★★★暗い雰囲気を醸し出そうとがんばってはいるんだけど、やっぱりどっから見ても瘻蜿ォな加山雄三が殺し屋に扮する、本格ハードボイルドもの。
ところがこの映画の観どころは別冊宝島「この映画を観ろ!A男のエンターテイメント800本」に掲載されている田口トモロヲのレビュー(彼はこの映画を日本のポイント・ブランク」(リー}ービン主演の新感覚の殺し屋映画)だっ!と言いきってます(爆笑))にあるように、ケン・ラッセル張りの、目を疑うようなサイケデリックかつ破廉恥なベッドシーンである(爆)。
銃が発射されて真っ赤に染まる蝶々、踊るパプアニューギニアの土人、壁画・・・などなど不可解な映像が散りばめられてゆくのにはクラクラしっぱなし!そして最後は燃え上がって、真っ赤な太陽が・・・!って、とにかくもう目眩がするようなサイケ映像なのである!(笑)。
そして極めつけは何と言っても、愛し合うあまりに全身真っ黒に塗って土人スタイルで一心不乱にボンゴを叩きまくる若大将と虫取り網を振り回しながら踊りまくる浅丘るり子。
これにはもう呆気にとられるしかありません。はっきりいって2人ともただの変態(笑)。
全く意図がつかめない!恐るべき60年代!おそるべき日本!
さてさて話のほうはとある組織の手助けをした若大将が敵の殺し屋に狙われるようになり、若大将の恋人となった浅丘るり子が組織に殺され、捨て身の復讐を繰り広げるといった単純なものなんだけども、武器の世話人に岸田森、敵のボスに小沢昭一などなど、曲者勢揃い。
「我々に必要なのは科学ではなく飛躍するイメージ、大胆なゲバルトだ」なんていうまるでムチャクチャなベッドシーンの言い訳みたいなナレーションが入っちゃってさあ大変(笑)。
とにかく例のラブシーンだけは是非1度・・・ニヤリ(岸田森風に。ニヒルに)。
ちなみにこの映画が大好きな松田優作は「遊戯シリーズ」へと着手することになった。
<ナヲイ>

危いことなら銭になる
監督:中平康
脚本:山崎忠明・池田一朗
キャスト:宍戸錠、長門浩之、浅丘ルリ子、草薙幸二郎、左ト全 etc
1962年(日活)

★★★白昼堂々、造幣局の紙幣印刷用スカシ入りミツマタが何者かの手によって強奪された。それを聞いたガラスのひっかく音が大の苦手なガンマン”ガラスのジョー”(宍戸錠)、「週刊犯罪」の編集長で何でも数値にして判断する”計算尺”(長門裕之)、ブルドーザーを操る腕自慢ブル健(草薙幸二郎)たちはそれぞれに帰国する偽札作り世界一の坂本老人を捕らえて犯人に高く売り付けようと羽田空港に集合するが、犯人はそれも見越していて既に坂本老人を何処かに連れ去っていた。ジョーが手がかりをもとにたどり着いたギャングの事務所にいた秘書、格闘技好きの女子大生・とも子(浅丘ルリ子)はジョーのせいでクビになってしまい、留学費用を稼ぐ為ジョーらに元を取らせようと、先の2人と共にギャングとの老人争奪戦に参加。果たして老人はどちらの手に?やばいことは本当に銭になるのか?・・・どうかは観てのお楽しみ(笑)。
延々と札束の舞散る映像の中「あなたを殺すのは誰〜♪冷たいナイフで刺すのは誰〜♪」という渋〜いブルースタッチのテーマが流れるゆったりとしたオープニングとは裏腹に、ルパン的なジェットコースター的な展開を見せる内容には茫然である本作は、加賀マリコの魅力全開の「月曜日のユカ」、トリュフォーも絶賛の和製ヌーベルバーグ「狂った果実」、モダンかつなまめかしい「砂の上の植物群」などなどモダンかつ幅広い作品を手がけた中平康の初期の痛快ギャングアクション。
脚本は後の旧ルパン、新ルパンの第1話を手がけた山崎忠明という、テンポのいい展開や雰囲気も納得のスタッフである(笑)。
ラスト付近の埋め立て地での取り引きでのロングショットでは米粒ほどになった人物たちを巨大な矢印で追うなどの突飛なアイデアも飛びだします。ちなみにタイトルは「やばいことなら」と読むそうな。
<ナヲイ>

 

家族ゲーム
脚本・監督:森田芳光
キャスト:松田優作、伊丹十三、由紀さおり、宮川一郎太、戸川純 etc.
1983(ATG)

★★★ATG映画の誇る、まさに低予算映画の金字塔。
音楽を一切使わず、食べる音とか効果音を気味悪いほどに強調。向かい合うことのない5人が並んで座る食卓からして皮肉たっぷりで、設定からセリフ一つ一つまで計算し尽くされてます。
そしてこの映画における、冗談か本気かさっぱり解らないのセリフを抑揚なく無表情でぼそぼそささやく家庭教師役の松田優作が最高。右手には植物図鑑、毎日船でやってくる謎の家庭教師。一連のアクション映画等のハードなイメージを内に秘めたその無感情さは実に不気味悪〜い!内ポケットからは44マグナムではなく、冷や汗をふくためのハンカチが出てきたりして。
絶妙にボーッとしている由紀さおりも、目玉焼きの黄身をチューチューすする伊丹十三も、途中でマンションのにおける死体処理について?相談にやってくる戸川純もかなりキてます。
どこかおかしいキャラクターたちが生み出す妙な"歪み"や"ズレ"は一度ハマると抜け出れません。 で、やっぱり見所はラスト付近の7分に及ぶ「最後の晩餐」。茂之君の合格祝いにおいて、何食わぬ顔で食卓を●▲×して、家族たちを●▲×●▲×して、あっけにとられる我々を尻目にコートの襟を鳴らしながら去っていく松田優作には圧巻。何事もなかったかのように春眠をむさぼる沼田家のラストも不気味だ。
キネマ旬報ベスト1位、監督賞、主演男優賞(松田優作)、助演男優賞(伊丹十三)など、84年の日本映画界を圧倒した怪作。僕はこのセンス抜群の映画をきっかけに、邦画にハマることになった。
<ナヲイ>

 

弾丸ランナー
脚本・監督:サブ
キャスト:田口トモロヲ、DIAMOND★YUKAI、堤真一、麿赤児、白石ひとみ
etc 1996(日活)

★★嚼l生負けっぱなしの情けない男田口トモロヲが奮起、銀行強盗を試みるがマスクがない!サマにならん?!っつってコンビニに赴くが子供用のマスクしか売っていない、オマケにジャンキー店員のダイヤモンド★ユカイに万引きを発見され万事休す。すったもんだで銃を店員に奪われて負け犬ランナー田口トモロヲは走り出すのであった!
追うジャンキー店員、逃げる負け犬男の図に、組長のタテになるはずが刺客のドスをよけてしまって組長を殺させてしまった上に怖くてオトシマエもつけられないへっぽこヤクザ・タケダ(堤真一)がひょんなことから参入、3人の弾丸レースが幕を開ける!そこに組長の敵と立ち上がるヤクザ、迎え撃つヤクザ、現場を押さえてまとめて逮捕しようとする警察が絡んでラストまでひたすら突っ走る痛快な82分。
ヤクザ×2組と警察と弾丸ランナー×3が一同に会すまでのスリリングな展開もさることながら、走ってる途中ですれ違う有名AV女優(白石ひとみ)との三者三様の妄想、銃の出所が明らかになっていく様子など、途中で走る3人はもちろん、お気楽な警察連中から燃えるヤクザ連中まで、それぞれのキャラクターにスポットを当てていくあたり、タランティーノ的な複雑なプロットも巧み。会話のセンスもグー。
情けなさを存分に発揮した田口・堤両氏にも拍手。
「レザボア・ドッグス」や「ロック・ストック・トゥー・スモーキンバレルズ」あたりがお気に入りの人には激オススメ。
ところで松田優作の遺稿にあるひたすら刑事と犯人が走る「ドッグ・レース」が近年催陽一監督によって「犬、走る」として映画化されたがイマイチ物足りない感じであった。こちらのほうが、松田優作がやりたかったイメージに断然近いように思える。
ちなみに続く第2作「ポストマン・ブルース」も傑作。今度は堤さん、自転車で突っ走ります(笑)。
<ナヲイ>

しとやかな獣
脚本・監督:川島雄三
キャスト:伊藤雄之助、山岡久乃、若尾文子、船越英二 etc.
1962(大映)

★★★何やら中年夫婦がせかせかと家具を移動させているベランダの向こうの部屋が気になるオープニング。そこでヨオオオオオオッ!といきなり鳴り響く能のお囃子がバッチリと決まる。実はこの夫婦(伊藤雄之助&山岡久乃)、は芸能プロダクションに勤める息子に会社の金を使い込ませ、娘を流行作家の2号として貢がせているという全員グルのとんでもない銭ゲバ家族で、部屋の中だけで贅沢な暮らしを満喫していたのだった!(笑)。
この日、息子の使い込みがバレてプロダクションの人間達が乗り込んでくるので、すかさず貧乏家族に変身、それで高価な絵やら家具やらを片づけ、自らも質素な服装に着替えていたのである(笑)。
この後、例の流行作家、そして最大の強敵、若尾文子演じる芸能プロダクションのしたたか美人弁護士(いや本当にしたたかで美しい・・・)ら、外部からの訪問によって徐々に彼等が築いてきたサンクチュアリも崩壊していくが、全く懲りた様子はなく淡々と映画は進んでゆきます。
それにしても、ほとんどこのアパートの一室だけで展開してゆくのだが、常に誰かが隠れている状況、換気扇からのぞくなど多角度から攻めるひねくれたカメラワークのセンスは邦画史上ナンバーワンではなかろうか?次々と訪れてくる奇妙な来訪者たちとの駆け引きも絶妙で、その会話のテンポも抜群だし、随所に織り込まれた、閉鎖的な階段と通路を走り抜ける奇妙な心理描写もすごく印象的かつ効果的だ。
そして完璧に事を片付けたはずの美人弁護士・若尾だったが、1人の男の行動が運命を変えてしまい・・・。ラスト、雨の中響き渡るお囃子と山岡久乃の冷ややかな表情が印象的。
「幕末太陽伝」で有名な鬼才川島雄三監督は「銭が全て」の日本人のセコセコした現代社会を1962年にして痛烈に風刺してみせた、溜め息が「フハー」と漏れるほどのブラックな喜劇の傑作。
言い忘れていたが、小沢昭一演じる胡散臭いシャンソン歌手、随所で「そんなんだったらお父さんにお小遣いくれよー」とまじめな顔で迫る伊藤雄之助演じる父親は爆笑!これだから邦画はやめられない!!!
<ナヲイ>

ゴジラVSヘドラ
監督:坂野義光
キャスト:ゴジラ、ヘドラ、山内明、木村俊恵、川瀬裕之 etc.
1971(東宝)

★★★水銀、コバルト、カドミウム〜♪鉛、マンガン、オキシダン〜♪という奇天烈なテーマソング有名なカルト邦画の金字塔的作品は、謎の女性がサイケデリックな背景を背に歌うオープニング、チャーミングなアニメ画像、子供の熱いメッセージを乗せた作文、さらにはニュースや検証番組までフューチャーされたもっとも異常で奇天烈なゴジラ映画である。
人間の流す汚物から生まれたヘドラは急速に進化を繰り返し、硫酸をばらまきながら飛行するようになり、死人続出。空は排気ガスに覆われ、緑も無くなってゆく。
そしてそんな状況を見かねたのか、ヘドラを倒すため、夕焼けをバックにゴジラが登場するのであった・・・!
まあはっきりいってゴジラとヘドラがぎゃあぎゃあいいながら闘ってるシーンなんかは特撮に疎い自分には退屈ではあるのだが(爆)、何と言っても随所に散りばめられたおサイケな画面から60年代の日本のヒッピー文化が学べるのがグーなのだ(笑)。
「俺たちの心の中にしかもう緑はねえんだ、みんな踊ろうぜ!」と半ばヤケクソで開催される公害反対運動ならぬ公害反対ゴーゴーなるダンス集会、ついでにラリってしまう青年、ボディペインティングのイケイケなお姉さんが踊りながら歌う例のテーマソング。このへんが何と言っても見所ではないだろうか?(笑)
そんな異常なテンションの中、自在に空を飛びまわり、自在に形を変えるヘドラに片腕を負傷するなど大苦戦する我らがゴジラ。日本の運命やいかに・・・?そして公害反対ゴーゴーはむくわれるのか?(笑)
緑を帰せ!青空を返せ!世の中サイケだフラワーだハッピーだ!ギャオオオス!(謎)
<ナヲイ>

 

『ゴジラVSヘドラ』テーマソング
鳥も魚も何処へ行ったのぉ〜?
蜻蛉も蝶も何処へ行ったのぉ〜?
水銀!コバルト!カドミウム! 鉛!硫酸!オキシダン!
シアン!マンガン!マナジューム! クロム!カリウム!ストロンチューム!
汚れちまった海 汚れちまった空 生き物みんな、いなーくなーって 野も山も黙っちまった〜
地球の上に誰も〜誰もいなけりゃ泣く事も〜できない〜
返せ〜!(返せ〜!) 返せ〜!(返せ〜!) 緑を〜青空を〜返せ〜! 返せ〜!(返せ〜!) 青い海を返せ!返せ〜!(返せ!返せ!) 返せ〜!(返せ〜!) 返せ〜!(返せ〜!) 命を太陽を返せ〜!返せ!(返せ!返せ!) 返せ!返せ!返せ! か〜え〜せ〜!!! 

ヒポクラテスたち
脚本・監督:大森一樹
キャスト:古尾谷雅人、伊藤蘭、柄本明、小倉一郎、光田昌弘、渡辺文雄、狩場勉、真喜志きさ子、阿藤海、斎藤洋介、手塚治虫、原田芳雄、鈴木清順、森本レオetc
1980(シネマハウト+ATG)

★★★大森一樹が自分の経験をもとに描いた作品で、ちょっぴりブラックで滑稽でリアルな青春映画。
モラトリアムに明け暮れる医大生たちの最後の1年。そこまで来てまだ医者になるかどうか悩み続ける、
何処か頼りない荻野(古尾谷雅人)、子持ち学生の年長者加藤(柄本明)、医者になることを悩むみどり(伊藤蘭)、ガリ勉タイプの大島(狩場勉)、野球少年あがりの王(西塚肇)ら6年生はポリ・クリと呼ばれる臨床実習の毎日を送っていた。
また、荻野の住むオンボロ下宿には精神医を目指す西村(小倉一郎)、新左翼派学生の南田(内藤剛志)、 寮生活8年目の本田(斎藤洋介)など一癖も二癖もある連中が住み、そえぞれに悩み、挫折したり、しながら物語は進んでいく。
皮肉にも避妊法の試験をパスした日、荻野は恋人を妊娠させてしまい、こっそり怪しげな産婦人科でおろすのだが、何故か容体が悪化して彼女は実家に戻ることになってしまう。
荻野は後ろめたさを感じ続けながらも卒業が近づき、国家試験に向けて勉強をし始めた頃彼女をみせた医者がヤブ医者で摘発されたニュースが報じられ、荻野は決定的に精神のバランスを崩してしまい、自ら患者となり、精神科に入院することに・・・。
そうそうたる個性豊かなキャラクターに加え、小児科の先生には手塚治虫、手術直後にタバコをガンガン吸いながら荻野たちを説教する(笑)原田芳雄、コソ泥役の鈴木清順、卒業写真を撮影するカメラマンに森本レオなど何とも豪華なゲスト陣が随所で登場し、楽しませてくれる。
さらには映画狂の寮生高本の部屋には「タクシー・ドライバー」や「気狂いピエロ」のポスター、「勝手にしやがれ」のジーン・セバーグっぽくタバコを吸う荻野の恋人、「12人の怒れる男」のセリフの引用、昔撮った8ミリ映画の登場など、映画好きの大森監督らしい青春へのオマージュに溢れている。そういった意味でもまた楽しめる作品。
良い青春映画はノスタルジィとリアルへの共感、そして何より「あの頃に戻りたい」的欲求を沸かせるものである。この映画は十二分にそれらのコンテンツを満たしていてどこか愛おしさすら感じる。
僕らはどことなく情けない荻野愛作に共感し、彼等にゆっくり押し迫る現実を実感し、モラトリアムな空気に郷愁を感じることができる。
大森監督の諸作の中でもズバ抜けた良質の青春映画(のハズ)で、1980年度キネマ旬報日本映画部門3位の名作。
<ナヲイ>